神戸大学大学院 人文学研究科 美術史学 野田研究室
日本絵画史上、最大の画派となった狩野派は、古典図様を学び、それを同時代的な解釈に基づき描
くことで受容層の支持を得、四百年にわたり画壇の中心に居続けることに成功した。本研究は、狩野
派が古典図様に倣って描いたこれらの作品のなかで、それが画中の表現もしくは款記などで明示され
る倣古図に注目するものである。
狩野派の変革者・狩野探幽は、古典名画の諸様式を整理した倣古図様式を確立し、探幽周辺の画家
はその普及に努めたため、彼らによる倣古図の図様は、狩野派の作画活動の根幹に組み込まれた。狩
野派の倣古図は、彼らの作品の本質を端的に示す作品群であり、典拠となった中国絵画の日本におけ
る受容について考えるうえでも、きわめて重要な作品と言える。しかしながら、日本絵画研究におい
てこの分野について継続的に蓄積された研究はなかったため、筆者は2010年頃よりこのジャンルの研
究をライフワークとしてきた。ここでは、近年の成果である科学研究費助成金事業「狩野派による倣
古図の総合的研究」成果報告の一部を紹介する。
本科研は2023年下半期から2024年度中に行われ、筆者はその期間、集中的に江戸狩野派の倣古図、
関連作品を調査した。その調査成果をもとに、2024年度の後半には、調査結果をデータベースに入力
する作業を集中的に行った。本研究開始以前に入力した倣古図とその関連作品は3092図であったが
、2025年3月時点で3641図となり、本研究開始以前の目標であった3500図を大幅に上回る作品情報を
データベースに入力した。
このデータベースを公開するための準備として、千種佳奈氏(2024年度当時 神戸大学大学院修士課程二年)、朝井真古氏(2024年度当時 同修士課程一年)、猪島早智氏(2024年度当時 同修士課程一年)を作業補佐員として雇用し、画像整理の補助、データベース情報の確認などを行ってもらっ
た。
その成果の一端を示すべく、全3641図の情報を入力したデータベースから、模本と未調査作品などを除いた作品について、筆者、典拠となった画家の名前(伝承含む)、画題、款記や印章、年記などの項目を抜き出し、その情報を掲載した成果報告書(2025年3月刊行)を刊行した。なお、2025年春より、神戸大学美術史学野田研究室にて、本書の基となるデータベースの検索と画像の閲覧(※所蔵者の許可を必要とする)を予約制で公開する。